降臨賞/Damned.
冷たく澄んだ空の下で僕は待つ。上空の雲を吹き払った風は、この紅い荒野でも猛威をふるっている。氷の刃のように頬を撫で、耳元で唸りを上げて、コートの裾をはためかせる。伸びた髪が吹き上げられて、青一色の視界をさえぎった。手袋に覆われた指で目元をはらって、また上空を睨んだときだった。
蒼穹の彼方に黒いしみが見えた。みるみるうちに点からシルエットになって、細部が見えてくる。落ちて来るのは女の子だ。風にまっすぐ尾を引く長い髪、白黒のセーラー服。胸元に組んだ手の上で黒いリボンがひるがえる。
どれほどの飛速かはわからない。顔をまっすぐにこちらに向けて、両目を瞑っているのに、視線の圧力が、真下で彼女を待ち受ける僕に突き刺さってくるようだ。今度こそ受け止めて、と云っているように―――
全身を衝撃が突き抜けた。
ずっと想像していたとおりの。あるいはまったく想像もしなかったような。
これは、生きた少女の形をしたハンマーにたたきつぶされるようなものなのだ。
受け止められるはずは、ない。
ないとわかっていても、僕にはこの一連の行動を止めるすべがない。
意識が戻ったのは、痛みのおかげだった。腕も脚もどこも動かない。目蓋を閉じることもできなかった。視界の左隅にある白い顔にピントが合わないのがせめてもの救いだ。僕の身体も彼女の身体もめちゃくちゃになっているのだろう。僕はまた、仕損じたのだった。
ぼうっとしていると、羽根が風を切る音がして、かしいだまま固定された視界を影が横切った。油の七色に艶めく黒い翼がたたまれるのが見えた。
「また派手にやったな」
深みのある声が云った。
「たまには、これまでの回数が知りたいか?」
肺が潰れたらしく声は出なかった。跳ねて近づいてきた鳥はこちらの眼を覗き込むようにして、僕の意志を読んだ。
「そうか。意味のないことと知りながら数えたがる者は多いのだが。次はいつがいい。明日でも千年後でも、どちらでもかまわない」
明日また、この苦しみを味わうのと、千年この荒野に立ったまま待つのと、選択肢は二つだけ。
鳥は賢しげに首をかしげて、僕の眼を再び覗き込んだ。
「わかった。ではまた明日会おう。成功を祈っているよ」
待ってくれ。僕に与えられた『刑罰』は、どうしてこんな―――
「現世の生を終えて私と初めて会ったときの自分に聞くんだな。おまえがそうしてくれと云ったから願いを叶えた。それだけだ」
獄丁は翼を広げ、悠々と飛び去った。
もうすぐ動けるようになる。千年ぶりに降ってきた少女の死体をそのままに、僕はまた独りでここに立つ。
明日、見上げる空は何色だろう。何万回、何百万回繰り返そうと、変わるのはそれだけだ。
少女は明日も降ってくる。
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