真の虫

通勤電車の中から窓の外を眺めていたら、雨に濡れた緑のむこうに小さな公園が見えた。砂場の横に、コンクリ製の動物たちが並んでいた。数体のなかのひとつは、自分が小さい頃に近所で遊んだものと同じ形だった。うちのそばの公園と同じころにつくられた公園なのか、それともあれは永遠の定番商品なのだろうか。へんてこな色のラクダにもたれかかって、夏の盛りでもひやりと冷たい手触りを楽しんでいたのを思い出した。

あのころもよく虫を探して歩いていた。通う先が幼稚園から会社になっただけで、やっていることが今とあまりに変わらないので笑ってしまう。成長とか進歩っていったいなんだろう。

ラクダに乗っていた頃は、うちのそばでもよく蛇を見かけた。マムシ、アオダイショウ、シマヘビ、ときどきヤマカガシ。

マムシが家の中に入ってきたこともある…と書くとどんな山の中だといわれてしまいそうだが、自宅は住宅街の真ん中にある。街の周囲にぐるりと雑木林や竹林があるので、そこが供給元になっていたのだろう。

小学校の高学年くらいで、夏休みにたまたまひとりで留守番をしていたときだった。庭に面した掃きだし窓の網戸の隙間から、黒くて細いシルエットが入ってくるのを偶然目撃したのだ。というか窓のすぐそばに座っていたから、わっと飛びのいた。背中に連なる模様を見ればどんなに小さくても毒の強いマムシであるのはすぐにわかったから、ここでなんとか対処法を考えなくてはならないと、おつむの足りない小学生はあせりまくった。つかむなら首の後ろだが、軍手のありかも知らないし、蛇の攻撃の速さはハンパでないのは野外観察で知り尽くしている。考えた末、学校用の長いものさしで頭を押さえつけて(身体をぐるりぐるりと巻くようにして逃れようとするのが怖かった)、窓辺にあった観葉植物用のガラスの鉢カバーを上からかぶせて捕獲。

そこですっかり安心してしまって、親が帰ってくるまで絨毯の真ん中に鉢カバーを放置したのは失敗だった。

「ねえ、これなに」

「蛇」

「……」

子供のゲテモノ好きを知り抜いているはずの親をさらに呆れさせる結果となった。

マムシは真虫、「真」は毒の強さに対する畏れをあらわしているという。最近写真を撮りに歩くあたりでは、以前はよく大小の個体を見かけたし、草むらで抜け殻を拾ったりしたのに、今はさっぱりだ。

怖い生きものだが、つきあいかたさえ心得ていれば、害はない。水が流れるようになめらかな動きで、草の間に消えていく姿をまた見たいものだ。