輝くもの天より墜ち

銀河辺境の惑星ダミエムにひっそりと暮らす有翼の種族は、悲劇的な過去を背負っていた。妖精のように儚いかれらの身体から採れる液体が、無上の珍味とされた時代があったのだ。密猟者の暴虐の嵐にさらされた彼らは、連邦の介入によって救われた。

今では彼らの保護の任に当たる有能な連邦行政官コーリー、その夫で副行政官のキップ、医師のバラムジ、三人のヒューマンのみが暮らすダミエムに、ある日一団の観光客がやってくる。かつて破壊された星の残した光がダミエムを行き過ぎるのを見物しようというのだ。

事件が起きたのは、美しいオーロラに似たノヴァの光がふりそそぎ始めたそのときだった。

筋立ては、限られた空間と条件の中に多数の人々が閉じ込められた状況で異状が出来する「嵐の山荘」または「孤島もの」と呼ばれるミステリとよく似ている。異なるのは、SFならではの常識と選択肢の多様性だけだ。異星の環境、異種族、登場人物それぞれがかかえた事情―――絶妙に組み合わせられたそれらが生み出す緊張感に、ページをめくる手はどんどん速くなっていく。

人の心にともに在る、耐え難いほど醜い欲望と硬く澄んだ不滅の理性が、この作品を彩っている。悪の描写は気が重くなるほどだが、これらを欠いては物語は精彩を失っていただろう。善悪一方のみからなる人間が存在しないように。

本書の作者ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアが男性の名をもつ女流作家であるのは、いまではよく知られた事実である。1987年、彼女は病んだ夫を撃ち、自分の頭にも銃を向けた。ニュースを聞いたときは驚くと同時に、その引き際の鮮やかさ潔さに唖然としたものだ。

あのころから年を重ねて、終点が遠くとも確実な点として見え始めたいま、あらためて考える。

その決定的な瞬間に、彼女は何を思っていたのだろう。

生の終わりをどのような心持ちで迎えるか。宗教、哲学、さまざまな学問や宗派に属する人々が答えを出そうとしてきたが、いまだに絶対的な回答は得られない。迫り来る死は、誰とも分かち合うことが出来ない。個人的な体験と呼ばれる経験のきわみにある。

作家は脱いだ肌を衣服に仕立てるようにして作品を織る生きものだ。

さいごの数ページに書かれた、近付く運命への透徹した理解と容認に、彼女自身もまた到達していたのだろうか。個の終わりに対する動物的な恐怖の克服と理性の勝利のモチーフは『たったひとつの冴えたやりかた』の最初の中篇にもあらわれていた。感情に重きを置くことが多い同性に顕現することは少ない美点と知りながらも、理想のありかたを、彼女は異性に託そうとはしなかった。

作品を通して、彼女は繰り返し確認していたのではないだろうか。いずれ旅立つときの己れの心を。

SFならではの、またはSFらしからぬ余韻が長く続く、忘れられない読書となった。