Ashes to ashes, dust to dust.

きのう本棚から発掘してきた『ルーグナ城の秘密』と『たったひとつの冴えたやりかた』には、トレーシングペーパーのカバーがかかっていた。ケータイで写真を撮るために、本からカバーを取って、半透明の硬い紙を外すと、表紙はさらりとして艶を保っていた。暗いところにしまいこんであるから光による退色もない。ページがわずかに茶色くなっているが、古本として出せば美品で通るだろう。

大切な本のために、そうやって手間をかけていたころがあった。学校の図書室で、委員を務める友人達が新着の本を作業台に積み上げて、定規をうまく使いながらビニルカバーをかけていたのを見て、それをまねたのだ。

うす暗い棚の奥を覗き込むと、自分が覚えていたよりもたくさんの本にカバーがかかっていた。そのほとんどがハヤカワの文庫本だった。

くりかえし読み、大切に保管してきたこれらの本も、いずれは古本屋かゴミの集積場行きになる。それはしがない個人のコレクションの宿命だ。

亡き父も、結婚前は自分と同じようにハヤカワの本にかなりの資金と時間を投入していた。父の実家に遊びに行くとハヤカワミステリが売るほどあったと母から聞いた。それらの蔵書は、かれらが結婚して引越す時にすべて廃棄処分になった。

今日、そのハヤカワの棚に並べるのは、読了したばかりの『輝くもの天より墜ち』だ。本屋からうちにやってきたのも何かの縁。古株のお仲間といっしょに、すこしのんびりしていくといい。

いずれは消える身、そちらもこちらも。