チーム・バチスタの栄光
東城大学医学部付属病院で連続発生した心臓手術中の患者の死。院長の特命を受けて、その原因を探る昼行灯系主人公・田口先生の語りにまんまと乗せられて、さらに、ぜったいいっしょに働きたくないタイプの厚生労働省の役人・白鳥の怒涛の行動力に引きずられて、あっいうまの三時間だった。
総括すればミステリというよりも業界内幕物に近いが、そんなのはどうでもいい。圧倒的なリーダビリティの高さに完敗した。
コストパフォーマンスの関係で、一晩で文庫二冊読了とかそういうのはもうやめにしようと思っていたのに、やってしまった。途中で何度も寝ようと思ったがどうしても本が置けなかった。一冊がこんなに薄いんだからすぐに終わると思うとかえって中断するのがむずかしい。
大した分量でないのに文庫落ちで上下に分けたのは、ふだん本を読まない層にもアピールするためだろうか。ぶ厚い本を一気に読むという行為に萌えるのは本の虫族だけですかそうですか。
著者の海堂氏は現役の病理医で、本書には医師として彼の主張が巧みに織り込まれている。彼はこういう世界↓のひとのようだ。
オートプシー・イメージング学会 趣旨書
Japan Society of Autopsy Imaging
剖検はこれまで医学の進歩に対する高い貢献により重視されてきたが、近年、剖検率低下は世界的に顕著で、この傾向は医療の質の低下に直結すると憂慮される。
『死亡時画像病理診断』=『オートプシー・イメージング(Autopsy Imaging = AI)』は、こうした剖検をめぐる諸問題解決のため提示しうる一つの試案である。オートプシー・イメージングとは、死後画像(Postmortem Imaging = PMI)と剖検情報を組み合わせ、死亡時診断のスタンダードを構築し、医学的および社会的な死亡時患者情報の充実を図るための、新しい検査概念である。
オートプシー・イメージングを、患者死亡時における検査の選択肢のひとつとして提示しうる医療環境を整備すれば、患者死亡時情報の取得が可能になると同時に、その情報を基にした細密剖検も増加すると考えられる。死亡時における客観的画像が取得可能なため、司法関連情報としても有用性は高い。また、剖検CPCが必修となった医師研修制度の変更に伴い、研修医にとって剖検導入に有用である。
オートプシー・イメージング学会
趣意書のページより
自分も家族を亡くしたときに「死因を究明するためにぜひご遺体を解剖させていただきたいのですが」と主治医に頼まれた。が、すぐに断った。解剖は有用なものであると重々承知していたが、それでも、手術と病気で苦しんだ体をこれ以上切り刻んでほしくなかった。
結果として、家族の直接の死因はよくわからないままになった。
しかし、死亡時画像診断であれば、受け入れられたかもしれない。彼を苦しめ、命を奪ったものの詳細もわかったかもしれない。
こういう形の検査が普及すれば、自分のような悔いを残すひとが少なくなるだろうか。
今日は、墓前でそんな話もしてこようと思っている。