螺鈿迷宮

螺鈿迷宮

螺鈿迷宮

半身浴のあいだに読了。宝島社からデビューして、角川、講談社、新潮社、理論社と、出版元は見事に違うが、どの話も登場人物と舞台はみな繋がっている。これほどいろいろな出版社から出ている単一シリーズも珍しいのではなかろうか。

2006年晩秋に角川から出たこの本の著者紹介では「現在、勤務医」とあるのだが、一年後の秋に講談社から出た『ブラックペアン1988』では「現在も勤務医」とある。たった一文字の違いにもかかわらず笑ってしまった。この執筆スピードで勤務医が成り立つというのはすごい。専門は病理だそうだから、長い術中診待ちの間に書いていたりして。

読むのは四作目だが、今まででいちばんミステリっぽい。もちろん今までと同じく話のベースはあくまで医学なのだが、ミステリ分類でいえば「館もの」。

迷宮は、古い定義に従えば、生と死をつなぐ闇の中の一本路だ。くぐりぬけた者は生まれ変わることができる。螺鈿、薔薇、花の名をもつ女たち。象徴と隠喩で読み解こうとすると不思議なほどしっくりくるのは、著者の計算のうちなのだろうか。