ダークナイト The Dark Knight

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ものすごくひさしぶりに「映画」を観た気分に浸らせてもらった。

バートン監督版のバットマン映画は、おもちゃ箱を喜々としてひっくり返して見せる子供の空想に似ていて、あれはあれで嫌いではなかった。今回のノーラン版では、悪徳の巷ゴッサムシティは、何の変哲も無いアメリカの灰色の大都会として描かれる。何も告げられずに観はじめたら、ふつうのアクション映画だと思うだろう。当のタイトルロールが出てくるまでは。

Because some men aren't looking for anything logical, like money.

They can't be bought, bullied, reasoned or negotiated with.

Some men just want to watch the world burn.

金や権力では動かない悪、世界を混沌のうちに炎上させることのみを希求する絶対の悪意と対峙することは、はたして可能か。

ジョーカーは人の心をもてあそび、堕落させるのを無上の喜びとする。熱意と大義をもって惨禍を準備するテロリストよりもはるかに始末に悪い。対するバットマンは、匿名と不殺のルールに縛られている。

楽しげな白い狂人と、闇を往く黒衣の騎士。陰陽の黒白のように彼らは互いを補完する。ジョーカーは格好の遊び相手の死を望まず、バットマンはもとより彼を殺すことは出来ない。

世界は彼らが作り出すあやうい均衡の上で揺らぎ、心弱いものは狂った哄笑の底に墜ちていく。

ジョーカーの醒めた狂気に血肉を与えたヒース・レジャーの早逝が、とても残念だ。