シャトゥーン ヒグマの森

シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)

国内最悪の熊害である「北海道三毛別(さんけべつ)羆事件」については、以前ネットで関連ページに偶然行き着いて、あまりの惨状に読みつづけるのを諦めたことがあった。今回、この本で再び同種の試練に直面することになった。いや、わかってはいたのだが、文庫落ちしたら読もうと思っていたので……。

ヒグマは、数百キロの体重にくわえて、俊敏さ、腕力ともに人間以上、猟師との駆け引きにおいても恐ろしいほどのずるがしこさを示す肉食獣である。森の中で出会って助かるかどうかは純粋に蓋然性の問題でしかない。

熊に襲われた、といえば1996年に逝去した写真家の星野道夫氏の事を考えずにはいられない。

だが、彼を襲ったロシアのヒグマは、現地の人間に餌付けされていて、野生とはいいがたい個体だったそうだ。人間の住むところやそのそばには餌があると学び、人間を恐れなくなった熊は、労せずして食べ物を得る道を選ぶ。が、そのときたまたまそこに星野氏が居た。あれは、そういうことだったらしい。

作中でも幾度も描かれる自然と人間の「距離」の難しさが、心に刺さる。