読まず嫌い。
息子の学校ではラノベが禁書扱いになっている件に関しては、ここでも以前ちょろっと書いた。
息子の話によると、ルール運用はまえよりなんとなく緩くなったものの、それでも禁止は禁止のようだ。たしかに、授業中に漫画や本に夢中になって先生の話そっちのけになってしまうのはよろしくない。しかし中学受験を終えてこれから自主的な読書を始めようという子供たちに、「ラノベ=良くない読書」イメージをあらかじめ植えつけてしまうようなやりかたには賛成できない。その雰囲気に乗るようにして、ラノベ読みの友達をからかったりしているらしい息子たちの態度もずっと気になっていた。
何を読もうがそれはそのひとの自由だし、あらゆる既存のイキモノの形を内包するポケモンのように、ラノベとひとくちにいってもいろいろな小説がある。ぜんぶひとまとめにしてそこの棚ごと忌避していたら、それこそもったいない。自分の若い頃にはラノベというくくりこそなかったが、コバルト文庫と、いまはもうないソノラマ文庫がその役をになっていた。コバルトやソノラマの本は、いくらでもするすると読めて、純粋に楽しかった思い出がある。教養に繋がっていく古典も大事だけれど、気楽に身近な「物語」を追ってキャラクターたちと一喜一憂する楽しみも、息子には体験してほしい。
「とりあえず読め、話はそれからだ」というわけだ。
ふだんは海堂氏と万城目氏のファンである*1息子がまともに読んだラノベレーベル作品は『AURA』のみ。中二病の恐るべき後遺症を描いた田中ロミオ氏の学園ラブコメで、実に面白いのだが、同時に強烈なヲタク卒業の話でもある。ラノベに対して「表紙の萌え絵で騙している/美少女ヲタクとかアニメヲタクが読むもので一般書よりもなんかちょっとレベル的に劣ってるらしいもの」というイメージを持ちはじめているらしい息子にとっては、趣味で峻別されるスクールカーストを描ききったあれを最初に読んだのも、ちょっとまずかったのかもしれない。
本人が興味を持っているSFテイストなら抵抗も減るだろうかと、導入として『ハルヒ』シリーズも考えたが、本人にかまをかけてみると「あれってフィギュアが」「あれって踊りが」「あれってアキバが」などというばかりで、手に取りそうにない。こちらからのアプローチはあきらめた。
チャンスは思いがけないときにやってきた。以下、先日の自分のつぶやきを再掲。
ようつべで超電磁砲OPを見ていたら、息子曰く「あいつらがなんでアレやったか判った!」。硬貨を握って飛ばす真似をした友達がいたらしい。ラノベ文化に詳しいクラスタと疎いクラスタ間のコミュニケーション断絶の一例か(笑)
アニメ化されている『とある科学の超電磁砲(レールガン)』も、そのおおもとの人気シリーズ『とある魔術の禁書目録(インデックス)』も、いちど読んでみようと思っていた。息子も「硬貨*2を投げるヒロインがいるアニメ」としか知らない=先入観がないようだったので、これをルアーにすることにした。
次の日、『禁書目録』一冊目を会社帰りにゲット。食後に読んでいるこちらをちらちらと横目で見ていた息子だが、次の晩、二冊目を買ってくると俄然気になりだしたらしい。「面白いの?」と訊いてくる。面白いから続きを読んでいるというと「ふーん。このまえ読んでた『ニャル子さん』とどっちが面白い?」。
「うーん。『ニャル子さん』は面白いけど、クトゥルー知らないとすみずみまで楽しめないかもしれない」
「そうなんだ。クトゥルーとかニャルとかって、クトゥルー星から来た神様?」
「………ウルトラマンじゃないから! やっぱりラヴクラフトの原作を読んでからのほうがいいよ(T_T」
そして、春休みで生活リズムが狂って眠れないと彼が云いだした晩。
「じゃあこれ読んで寝れば?」と『禁書目録』を二冊まとめてお土産にもたせた。
結果、一晩で二冊読了。見 事 に 釣 れ た(笑
踏んだりけったりの主人公たちの境遇におおいに同情して「すっげぇへこんだ。俺ハッピーエンドじゃないとダメなのかも」とぶつぶつ文句を云うので、口直しにこれを読めとそこらへんにおいてあった『レキシントンの幽霊』を渡した。
「なんだよムラカミかよー」
「読みやすいし、現実に近いところに戻ってこられるよ。まさに幻想殺し(イマジンブレイカー)w」
「俺、ムラカミ読んだことないんだけど」
「これは短編集だから読みやすい。最初っから『1Q84』を読めとは云わないよ」
「『ねじまき鳥』は?」
「あれも長い。初期短編集のほうが好きだな、『カンガルー日和』とか。今度本棚から出してあげよう」
今日は、塾に行く前に本屋に寄って『禁書目録』の三巻と四巻を買ってくるといって、出かけていった。あまぞぬに頼む手間が省けた。
いろいろと読んでみて、それから好みを決めればいいのだ。最初から偏見色眼鏡をかけてしまって好みかもしれない本を逃がすなんて、もったいなさすぎる。ワインの飲み始めと同じで、最初は手探りでも、いずれは自分で好きなものを選び出せるようになるだろう。読むスピードが遅いと読み進める作業そのものが負担になるが、さいわい彼は自分と同じ速読体質だ。気が向けば、いくらでも活字を目で「飲む」ことができる。
抱えている悩みや疑問の答えは、たいてい本の中にある。
たっぷり迷って探すといい。