ソドムの林檎

ソドムの林檎

ソドムの林檎

911直前に書かれた、いずれもテロリストを主人公に据えたSF短編中篇集。読みやすくて、面白かった。表題作では舞台の関係でロシア語がルビに頻出して、わざわざそういうのが読みたくて探したわけではなかったのに、と不思議な気分になった。

そう遠くない過去、小説に登場するテロリストや国家転覆犯は一種の荒んだ美学を感じさる存在だった。蹠の柔らかい豹のように鎮静と興奮の間を行き来する策謀家たちの似姿としては、例えば、野阿梓氏の連作に登場する革命家レモン・トロツキーや、佐藤亜紀氏の『1809―ナポレオン暗殺』のウストリツキ公爵を想像してもらうとちょうどいいだろう。

だが911以降、テロリストの定義は変わった。要人や体制を狙うのではなく国家を戦場として無差別大量殺戮を繰り返し、敵の首を切り落とし、自爆も厭わない生きた凶器。それが21世紀のテロリストのステレオタイプとなって久しい。彼らが世界中にばらまく血と硝煙の向こうに消えていった古典的なテロリストの姿を、今日、何気なく手に取った本の中に見つけた。

2007-3-20 雪泥狼爪

と書いて、当時の自分はロープシンの本を紹介している。革命家であったロープシンが、野阿梓氏の描くテロリスト、レモンのモデルの一人でもあったことは最近になって知った。

表題作と同じ登場人物たちが活躍する大長編『バベルの薫り』のあと、『月光のイドラ』を読んで…彼の作品は何十年ぶりだろう。次は『伯林星列』の予定だが、どんどん濃くなるそっちの描写に耐えられるかどうか不安。長年のファンであっても覚悟を決めないと読めないという噂を確かめる刻限が近づいているようだ。