英国王のスピーチ The King’s Speech

人前でとうとうと話すのは難しい。

しかしどうしても話さなくてはならないとしたら。

身分が、立場が、時代が、沈黙を許さないとしたら。

さらには自分の舌と口が、意志と努力に背く最悪の裏切り者だったとしたら。

ひとは、その危機をどうしたら潜り抜けることができるだろうか。

のちに即位して英国王ジョージ六世となったヨーク公アルバート王子と、彼の重度の吃音治療に携わることになった言語療法士の物語である。

ちかごろ、自分の言葉に責任を持たない嘘つきばかりが跳梁跋扈しているところを見ているせいか、為政者のプレゼンスはその言葉、演説によって示されるという簡単な事実を忘れていた。目に見えない国の背骨として立つ彼が発する言葉が、いかに力強く戦時下の人々を鼓舞したか。のちに、ヨーロッパを覆った戦争の鴉にじかに肉をついばまれるようにして疲弊し、亡くなった英国王の生真面目な苦悩が、切なく心に残った。