スプライトシュピーゲル

スプライトシュピーゲル I Butterfly&Dragonfly&Honeybee (1) (富士見ファンタジア文庫 136-8)

設定の印象では「ミクロイドS」(虫型人間。年よりだから発想が古い…)+「GUNSLINGER GIRL」(サイボーグ化された兵器少女)だが、手練れのエンタテイナーである冲方氏なので、二番煎じにはならない。読み始める前は危惧していた独特の記号的文体も慣れれば気にならない。でなきゃヴェロシティ三冊は読めなかった。

ときは2016年、舞台となるのはかつてウィーンと呼ばれた百万都市ミリオポリス。事件や事故で負傷した子供たちに機械の翅と手足を与え、超高機動兵器として対テロリスト戦の只中に放つ、その足場となる世界観の組み立てはシームレスかつ周到だ。主人公たちは五体とともに傷つけられた心に秘めた悲しみを力として戦う。「All's fair in love and war./恋と戦争は手段を選ばない」という格言どおり、妖精(スプライト)たちの敵は、幼い子供をも平然と使い捨てる武器商人=テロ生産者だ。「紫火」の名を持つスプライトのリーダー、鳳(アゲハ)の毅然とした優しさが苛烈な物語のトーンを柔らかくしている。いずれ恋も、予期せぬとき、思ってもみない姿で彼女たちのもとを訪れるだろうか。

この物語世界では、キプロスの所有権をめぐってギリシャとトルコ系住民のあいだで戦端が開かれ、EUや鷲のマークの某トリガーハッピー国家が割り込んで紛争→テロ地獄になったようだ。最近EU諸国とトルコの関係の現状を学んだばかりだから、作者の未来予測にはうなずいてしまった。南北くっきり分断されたキプロスがいずれきなくさいことにならんといいが。

オイレンシュピーゲル』も読んでおこうかな。