恍惚境からの生還。

先月のいつだったか、親戚の95歳近い老婦人がとうとう恍惚のひとになったという話が伝わってきた。すごくしっかりしたおばあちゃんだったけれど、ついにくるべきものがきたんだね、年も年だからしかたがないね、というのが親戚中の感想だった。

先週末、家族が法要ついでにそこの家に寄った。お土産に、なんだか高級な和菓子と、そこの家特産の布製の草鞋までもらってきた。製造元がボケちゃったのになんで草鞋? と思って家族に話を聞いて、のけぞった。

当該婦人のボケがきれいに治って、いつものしっかりしたおばあちゃんにもどっていたというのだ。

「あたしったら、このまえ、ボケちゃってたみたいでね。■■さん(同居の嫁の名前。こっちも70近い)に迷惑かけちゃって悪いことしたわぁ。あのね、ボケてた間は時計を見て、針が指してる数字は6だってわかるのに、どういう意味だかぜんぜんわからなくってねぇ」

たぶん、ごくごく軽症の脳梗塞を起こして、それが自然に治癒して常態にもどったというのがリーズナブルな推測なのだろうが、ふつうはそのままボケるんじゃないんだろうか。草鞋を綯うときは両手両足を使うらしいから、そのあたりの刺激が脳機能の回復に効いたのか。人間ってすごいな。