リーピング The Reaping

リーピング 特別版 [DVD]

イナゴイナゴ♪ と思って借りてきたのだが、期待していたよりもずっと面白かった。お勧めありがとうございましたCOCOさん(笑)

アメリカ南部の小さな町で旧約聖書さながらの十の災いが起きて、その原因は…! というのが話の骨組み。でもキリスト教徒でないとその災いの脈絡には気づかない可能性大。10 Plagues, 10 scientific explanation と最初は威勢の良かったヒロインの大学教授のオーツキ教授的信念をゆるがすような事件がたて続きに起きる。真っ赤に染まる川、空から降る蛙、衰弱していく牛たち。これらは本当に森に棲む不思議な少女のせいなのか。ヒロインの運命やいかに。

以下はうっすらとネタバレ含むので隠す。


奇跡の真贋調査から事件に巻き込まれるというのはキリスト教系ホラーにありがちな導入だが、本職であるヴァチカン教理省や神父ではなく在野の研究者にその役回りがふられていたので珍しいと思ったら、彼女もまったくの「部外者」ではなかった。プロテスタントの聖職者なら結婚も出来るし子供も持てる。社会生活がフツーに営めるから暮らしやすそうだ。彼女の場合は牧師になったばかりに悲しいことになってしまったわけだが。子供との関係がトラウマになっている女性がその心の傷につけ込まれて闇の世界をかいま見るというのもホラーのお約束。これから見ようとしている『サイレント・ヒル』も、牧野修版ノベライズを立ち読みしたかぎりではそんな感じだし。

reaping 「刈り入れ」は、聖書ではよく使われる言葉だ。日本で刈り入れならまず米を想像するが、聖書では麦。実りの季節、良き農夫キリストによって良い麦は選ばれ、毒麦は抜かれて捨てられる。東南アジア圏では聖書の大好きな喩えがいまひとつぴんとこない。

後味の悪いラストについては、日本人ならすぐに実行するであろうたいへん現実的な解決策があるけれど、いまのアメリカではそこらが選挙の争点になっているくらいだから、そういうふうにあっさり考えてはいけないんだろう。日本のもののけは、器物が古びて目を開いたり、いつのまにやら湧いたりして出現するが、キリスト教の悪魔の場合は必ず女性の身体を経由しないとこの世で力を得られない(『オーメン』『エンド・オブ・デイズ』『ローズマリーの赤ちゃん』参照)。そんなところでさえ、救世主キリストのパロディであることから離れられない悪魔の性がなんだか悲しい。地の底から湧いてきたっていいじゃない、あくまだもの(何)

目当てのイナゴは、八番目の災いなのでけっこう最後の方。大乱舞でステキだった。

小学生の頃にこの『出エジプト記』の話を聞かされたときに「群れて飛ぶ砂漠のバッタをイナゴっていうのは、なんかへんじゃないか? テレビで観たアフリカの飛ぶ種類はイナゴよりトノサマっぽい形だったのに」と思ったのだが、いまWikipedia「イナゴ」の項目を読んで納得した。

「蝗」について

漢語の「蝗」(こう)は、日本で呼ばれるイナゴを指すのではなく、トノサマバッタサバクトビバッタなど限られた種のバッタが大量発生などにより相変異を起こして群生相となったものを指し、これが大群をなして集団移動する現象を飛蝗、これによる害を蝗害と呼ぶ。日本ではトノサマバッタが蝗、即ち群生相となる能力を持つが、日本列島の地理的条件や自然環境では殆どこの現象を見ることはない。わずかに明治時代、北海道開拓に伴う資源環境の破壊により起きたもの、1986年に鹿児島県の馬毛島で起きたものなどが知られるくらいである。 

日本人にとって殆ど実体験のない「蝗」が漢籍により日本に紹介されたときに、誤解により「いなご」の和訓が与えられ、また、ウンカやいもち病による稲の大害に対して「蝗害」の語が当てられた。

正確でない訳語がそのまま聖書の訳に採用されて、というわけだ。ちなみに棲息地域から考えて本命とみなされるサバクトビバッタ Schistocerca gregaria は乾燥重量に対してたんぱく質51.5%、脂肪10.7%、なかなか優秀な食材である。モパニ虫には負けるけど。(データ出典はこちら

wiki英語版を当たるとイナゴ locust とロブスター lobsterの言葉としてのつながりなど、面白い記事が読める。スペイン語では甲殻類やバッタをともに指す語の langosta に「海の/川の de mar/de rio」がつくとエビ、「大地の de tierra」がつくとイナゴ。これも食べた経験から出てきた言葉のような気がする。両方ぱりぱりするだろうしw <バッタは聖書でも「食べてよし」とされているイキモノなので敬虔なキリスト教徒も食べられる。

ああ、だらだら書いていたらすっかり趣味の話になってしまった。お昼たべよう。ぱりぱりしないやつを。