着物の誘惑。

先週から始まった息子の歯医者通いはまだしばらく続く。今朝は、予約の七時四十五分に間に合うように車をすっ飛ばした。来週の予約は七時半だ。正規の始業は八時からなのに、学校に間に合うようにと配慮してくれたのだ。申し訳ない。

息子があまりに大きくなっていたので、先生は目を丸くしていた。実家に戻って以来ずっとかかっている先生なので安心感がある。受付の女性もずっとおんなじ。奥さんなのかな。よくわからない。

疲れが出たらしく、頭痛がする。着物入門者向け特集の『七緒』を眺めながらすこし休むことにした。

着物専門誌を買ったのは初めてだ。いままで着物に強い興味を抱いたことはなかったけれど、鴛鴦の羽色のように艶やかな、あるいは落ち着いてシックな着こなしを見るのは好きだった。だが、自分が着るというところにさしかかると、いきなり双眼鏡を逆さに覗いたような遠さが気持ちの中に生じてしまう。冷たくしなやかに光る絹地の感触を味わうのは特別な日だけだった。着物にまつわる記憶といえば遠い日の祝い事ばかりが思い浮かぶのはそのせいだ。

ページをめくっていると、色名辞典で覚えていたさまざまな伝統の色が今も愛され、さまざまな取り合わせに生かされているのを実感した。

着物に熱中するひとたちが目指す平生からの和装生活は、ずぼらな自分には難しいだろうが、せめてうちにある着物をとどこおりなく着られるようになりたいものだ。

七緒 11 (プレジデントムック)

七緒 11 (プレジデントムック)