ライトでもリリカルでもラブリーでもない。


此の地上にてはHPLの名を以つて呼ばれし男

魂を病むのが先であつたか

己が書き連ねたる字句に心を蝕まれしか

 

我 若く未だ世の理を知らざりし頃に

貰い受けたる彼の書を

再び此処に開く


死体蘇生人。爬虫類館。深海の神殿。食屍鬼

闇。異形の住人。忌むべきもの。名づけられぬもの。

深淵に棲むもの。暗黒の接吻。忍び寄る恐怖―――


黒き羽蟲の如く並ぶ文字の一つ一つ

陰惨なる挿絵の一葉一葉 

暗く悦ばしゐ呪詛の円陣を成し 

砕け散りし魔鏡の破片の如くに失はれし

我が記憶を召喚す


血を滴らせて深淵より立ち現れし物語の骨は

先ず神経の蔓を纏い付け 鱗紅き肉を帯びて 

やがて禍々しき皮膜の翼を羽たたく

死魚に似て煙る 其の水晶の眸を覗けば

逆さに写るは嘗て魔書に魂を捧げし己が姿


脈打ち疼く古傷を舐めるが如く読み進めば 

昼の理知と慈悲深き日常は

青き焔を灯す獣脂のやうにとろけ流れ

扉を叩く音に顔を上げ 周りを見回せば

既に真夜中

旧い狂気と呪はれた叡智のしろしめす刻


気付けば 扉の陰に

太き鎖が絡まりて床を撫でる音有り

舌肉長く余りて喉に詰まりたるが如き声にて我が名を呼ぶもの有り


何処かで聞き覚え有る忌まはしき声 響きに戦きつつ

最終頁を繰れば

白き空白に乱れて紅く書き付けられたるは

我が名なり


其は契約書

魔書閲覧の代償は血と肉と魂にて贖ふべしと

今宵こそは其の期日

鈍く重く叩く音に扉が軋み ぢゃらりと鎖が歌ふ


机の引出しを探り 我は回転拳銃を掴む

人外の魔書の主がなべて辿る末路 此れなり

神よ 願はくは我が汚れし魂を許したまへ

好奇の心が斯様に重い罪を招くとは知らざればなり


おお 神よ 今こそ扉が開く…

クトゥルーケータイ小説、失敗の巻。むかし書いたものを改変した。このジャンルでは王道のラストを採用。どこがケータイ的かというと文章が短いところ。それだけ(殴)