タトゥー Tattoo

タトゥー [DVD]

タトゥー [DVD]

市警の一員となった青年マークは、ある一件のために、刑事課の一匹狼ミンクスとコンビを組むことになる。最初の仕事は、深夜の往来で交通事故に逢った女性の事件だった。炭になりかけた遺体から採取した証拠を追って踏み込んだ家には、鮮やかな刺青が施された人間の皮が保管されていた。そして刺青を巡る連続殺人事件の捜査がはじまる―――

2002年公開のドイツのサスペンス映画。レンタル屋で見つけたときは、DVDカバー裏の「日本人彫師によって12人に彫られたタトゥーを集める謎の人物Irezumi」とあるのに意地の悪い興味を引かれて、完全にトンデモ系ネタとして借りたのだが、なかなかまっとうで面白かった。目指すところは『セブン』と似て、人間の魂と欲望の暗部を描き出そうとしてがんばってはいるのだが、いまいち正気っぽいというか、メータが振り切れていないところが残念。見るものを狂わせる刺青の魔性を描くためには、エンドクレジットのところにはさまるあの場面を、きちんとラストにくっつけたほうがよかったと思う。*1

監督ロベルト・シュヴェンケは、2005年にはジョディ・フォスターの『フライト・プラン』を手がけている。*2

主人公の若い刑事を演じるアウグスト・ディールの端整な顔立ちにも驚いた。彼はドイツの人気若手俳優だそうで*3 最近ではアカデミー外国語映画賞受賞の『ヒトラーの贋札』にも出ている。フランスの同じような立ち位置の映画『クリムゾン・リバー』とその続編のように劇場公開すればよかったのにとも思うが、ジャン・レノくらい国内でも知られたひとが出てないと売りにくいんだろうな。

借りた目的だった「日本人が施した刺青の絵柄」に関しては、うーん、悪くはないんだけれど、身体の広い面積に入れる場合は何かのテーマ(竜虎とか人物とか)を中心にすることが多いから、北斎っぽい波模様だけではあんまり和彫りっぽくみえなかった。また、事件の中心となる刺青を遺した日本人彫師の名前がヒロミツとなっていたので、去年亡くなった眼鏡をかけた名脇役鈴木ヒロミツ氏を想起して何かが違う気分になった。「彫(ホリ)~」とつけるとそれっぽかったのに。

映画に登場する刺青ことボディペインティングを担当していたAlexander Boyko氏のHPはこちら。

http://www.alexanderboyko.com/index.htm

エンドクレジットで、Boyko氏の次に名が載っていたAlexander "hori kitune" Reinke氏についても検索してみたところ、高名な三代目彫よしについて日本で修行したアーティストらしい。

http://www.holyfoxtattoos.de/holyfox.html

なるほど、ちゃんとしたところに頼んでいたからトンデモ刺青にならなかったのか。よかったよかった。

映画で使われていた皮は、山羊のものだったそうだ。羊皮紙っぽいてかりがあったのはそのせいだろうか。

「本物」は、むかし某所で見たことがある。小柄な男性のそれは、年月の経過とともに色も古びて、生々しくはなかった。それでも、それをそういう形で保存しておこうと考えた研究者の気持ちはなんとなくわかった気がした。刺青には、そういう力がある。

*1:背中ぜんぶに彫るのには年単位の時間がかかるし、彫り上がったすぐあとは、針で肌を傷つけているわけだから、筋に沿って赤く腫れて柄が浮いたようになるんですが……リアリズムは追求してないって? すいません。

*2:あっちは見てないけど。

*3:ぜんぜん知らなかった。今度チェロ弾きに聞いてみよう。彼女はふだん伯林住まいだ。