子供回路。

子供を持っていると乳幼児~小学生が犠牲になった事件のみならず、そういう題材を扱ったフィクションに対しても敏感になる。そういうネタにはなるべくさわらないようにしているが、地雷回避に失敗したときは、ものすごくショックを受ける。

子供を持つ前は、べつに子供が好きでもキライでもなかった。電車の中でうるさい子供を見てもイライラするよりは無関心に本を読んでいた。

だが一度出産すると、ホルモン組の突貫工事によって脳内に子供専用回路が増設されるものらしい。ほうぼうの出先で子供の姿が目につくようになり、自分の子供よりも年下の赤子であれば泣き方やしぐさの意味までなんとなく解読できるようになり、さっぱりわからなかった年齢の見当もつくようになった。さらに子育ての過程を進んでいくうちに、庇護すべき対象は、自分の子供から子供全般にまで広がっていった。これは、外で行き会った赤子をあやしている一定年齢以上の女性の行動を見ればよくわかる。「見知らぬひとが子供をさわりたがる」と、若い母親には抵抗があるひともいるようだが、あれは本人たちにもたぶんどうしようもないのだ。赤子を見ると瞬時にスイッチが入ってしまう。若い頃はよもや自分がそうなるとは思わなかったが、電車の中でこちらを注視する赤子を見るとつい微笑みかけてしまうのだからどうしようもない。

そういう具合なので、今日判決が出たあの母子殺害事件については何を云ったらいいのかも、どう感じたらいいのかもよくわからない。必死に子供を守ろうとしたであろう若い母親と、かいなく奪われた小さな命の冥福を心から祈るのみだ。