油断大敵、火がぼうぼう。

先日書いたエントリ「『偶然だぞ』から考える」で、「偶然だぞ」というプラカードと化して物議を醸した「It's gonna happen.」は「くるぞくるぞ」と訳せるのではないかと書いた件について、中山氏のところで取り上げていただいた。

横浜逍遥亭―ニュアンスたっぷりで、けれど短いひと言が

http://d.hatena.ne.jp/taknakayama/20080424

背景に基づいて「今年こそ(優勝を!)」と訳すのが、いちばん原語のニュアンスに近いの由。

外国語の文章をきっちりと翻訳するためには真剣な下調べが不可欠だ。その観点から見ると、文のみを撫でて原文の背景の追求を怠った上記の自分の訳は、訳とも呼べない稚拙なものである。*1 文献を探せば、または検索をかければ見つかる情報を無視する者は、翻訳の仕事をする資格がない。

ビジネスやリアルの屈託から遠く離れたこのブログに、ほんの出来心で書いた言葉から、自分の気の緩みと油断を自覚することになるとは。

中山さん、よいきっかけをありがとうございました。

*1:これは、対価の発生する実際のビジネス上であれば許されない行為である。さらにいうと、医学方面の副作用報告翻訳を本分とする自分が、スポーツジャーナリズムの翻訳を引き受けることもありえない。翻訳者のジャンル棲み分けははっきりしている。金融レポートを得意とする者が特許翻訳を引き受けることもないし、医学論文を専門とする者がIT分野に手を出すこともありえない。このルールを逸脱すると今回のように大火傷を負う。分野ごとの翻訳の常識と必須単語はそれほど異なっている。また、上に並べたジャンルは実務翻訳と呼ばれ、小説などをメインのターゲットとする文芸翻訳とは性質を異にするが、下調べの重要さはどのジャンルにおいても不変である。