フリーになる前に。

数日前に話題になっていたらしい。

いまさらというか、自分が書くことでもないけれどちょっと気になったので。

若者たちよ、おっさんをとっつかまえて無礼に聞いてみたらよろしい。「なあおっさん、将来俺こういう風になりてえんだけど、ぶっちゃけ社会に出ててどう思うよ?」と。そうしてうすっぺらい説教をかますみのもんたというノイズを避け、親身かつ厳しくフェアに答えてくれるおっさんをみつけたら、彼の腕を掴んで離すな。質問を浴びせよ。そしてここが諸刃の剣で一歩間違うとすべてが台無しになってしまうポイントだが、彼の言う言葉の表面上の甘さに惑わされてはならない。中身を吟味せよ。彼の立ち位置の中立性、公正さを査定せよ。そしてなにより、彼が自分自身の実体験に基づいてのみ語っているかどうかを査定せよ。「社会人ってのは」と過度に一般化していないかどうか査定せよ。


elegantly cruel@d.hatena

「フリーを夢見るすべての若者たちは読め。あるいは、若者たちはもっとおっさんたちの話を(よく選んで)聞くべき。」

http://d.hatena.ne.jp/elegantlycruel/20080831/1220188829

書いていらっしゃる方(京大の学生さんらしい)は、企業に入らずにフリーで食べていきたいなあと書いていらした。

自分の経験に照らすなら、フリーになるのなら、最初に企業を経験したほうが後々やっていきやすいと思う。

フリーランスでは:

・たったひとりですべてを担当する。仕事をとってくる営業から渉外、製作、進行、チェック、納品にいたるまでぜんぶこなすのはきつい。各工程に必要な業界ノウハウをどこかで学んでいないと、自分ルールでテキトーに作業を進めた結果として、業界的にとんちんかんなことをやらかしてしまいかねない。

・仕事を回してくれるクライアントに切られたら(これが実にあっさりと切ってくるんだな、はははToT)大変なので、もし両手両足皿回し的なギリギリの状況になっていても、無理をして新しい仕事を引き受けなければいけないこともある。いや、ハイパー炎の上の綱渡りスケジュールを組むはめになるのは実際よくあるし。だんだん慣れてくると「それ、うちの仕事じゃないです!」と叫びたくなるようなハンパ仕事を押し付けられたりもする。クライアントにとって、フリーは純然たる下働き。唯一無二の作品を作るアーティストでもなければ、社会のヒエラルキーとしてはいちばん格下扱いが多かったりする。

・病気をするとマジでおまんまの食い上げ。寝込んだ翌月は一銭も入ってきません。

・独り立ちするにはそれなりの技術と知識が必要。

自分がやってきたのは医学系翻訳だけれど、仕事のベースになっているのは、大学卒業後に入った製薬会社で学んだ業界知識。出身は畑違いの法学部だし。

翻訳では専門性が重視されるので、学校を出たばかりで何の専門知識もない若者は、もしその時点でTOEICスコア900であろうとも、仕事を取るのはとても難しい。経済金融、特許の明細書、医学論文、ITマニュアル…単語も訳し方も、ぜんぜん違う。企業の専門部門に勤めて、そこで業界知識やセンスを吸収してきた三十路以降の層がいちばん活躍していると思う。

で、大学を出て企業に入った場合:

・お金をもらいながら業界知識が学べる。

・未経験の若造としてミスが許される。フリーは最初からプロであることが要求されるので、一度のミスでクライアントは逃げていく…。

・なりたくない見本がたくさんいるので、反面教師として活用させていただく(笑)職場の飲み会に無理につきあう必要はぜんぜんないけれど、出ると上司がなぜか喜んだり、お酒で口が軽くなってアレなネタを聞かせてくれたりするひともいるので、余裕のあるときは出ておくと◎。

・有給もあるし、病欠することになっても、上司と周囲にきちんと話を通しさえすればいきなりクビになったりはしない。福利厚生もばかにならない。強制的な健診もあるし。

・肩書きを利用して社会のいろいろなところを覗ける。バックのないフリーにはもぐれないところまで、●●社の人間というだけで年齢力量関係なく、するするっと入れたりw

・コネがつくれる。人材が同業他社を回遊している業界も多いので、同業の知り合いをつくっておくと、いろいろなところの裏話が入ってきてやりやすい。

フリーになるなら、まずどこかで自分の専門性を磨かないと、売り込める商品にならない。これからやっていきたいこと、好きなことが見つかっていればいいけれど、そうでない場合は、会社員として仕事をしながら雄飛の準備をするのも良いと思う。

あと、企業にいる人間なら必ず身につけているはずの会社員のしきたりを知るいい機会にもなる。むかしの職場で見かけて、うわーと思ったのは、企業勤務経験がない新卒派遣ちゃんがまずコピーのとり方、電話の出方からしてわからないという事実。機械の扱い方、紙の入れ方、電話のご挨拶、空気を吸ったり吐いたりするようなスキルが全くゼロ。

でも、新入社員として企業に入れば、まわりのみんな、先輩たちがよってたかって教えてくれる。同じ部署の仲間、戦力を育てようとして、貴重な手間をかけてくれるのだ。

この惜しみない教育を享受した経験があるかどうかで、自信をもってフリーになれるかどうかが決まる、かも。

フリーは誰にも育ててもらえない。

はじめから、使えるかどうか、それだけで評価される。

会社員でもフリーでも、働くときに大切なのは、期限と約束を守ること。裏にまわって人や会社の悪口をいわないこと。必ずどこかで相手の耳に入るから、どうせこっそり裏で云うなら、誉め言葉のほうがいい。そして仕事に対する叱責や非難を、自分の人格に対する挑戦や否定だと拡大解釈しないこと。

仕事は仕事、自分は自分。

以上、書きたいことおしまい。

年齢・職業関係なく集まって意見や情報が交換できる催しがもっと拡大していけばいいのになあ。