アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ

アンティキテラ古代ギリシアのコンピュータ

先頃、ハッブル宇宙望遠鏡の整備が終わった。地上数百キロの軌道上に浮かんで遥か彼方を睥睨するこの究極の「眼」のサイズは長さ13.1メートル、重さ11トン。宇宙の成り立ちと姿を知るために人間が作り上げた金属のからくりだ。その二千年前の姿が、この本の主役である。

1901年に沈没船の中から引き上げられたこの古代機構 mechanism についての記述を初めて目にしたのは、息子が読んでいた『超古代オーパーツファイル』だった。項目に目を通して興味を惹かれたものの、所詮は概して信頼すべき実証基盤に欠けた、偽科学的遺物のひとつに過ぎないのだろうと思った。そんなものが二千年前に造れるとは、とうてい考えられなかったからだ。*1

次にその名を見かけたのは『芸術新潮』2008年10月号。去年、図書館でこの雑誌を読んでいるときに(特集が須賀敦子女史だったので探していた)おしまいのほうのコラムで「オリンピックイヤーも測れる古代の機械」として取り上げられていた。雑誌が雑誌だけに、また短いながら真面目に書かれた内容だったので、あれっ、本当に凄い遺物なのかなと思った。しかしそれでも半信半疑だった。*2

そして、三度目の正直がそのものずばりのこの本だった。新聞の広告でタイトルを見つけて、トンデモ科学ネタかもしれないものをわざわざ買うのもどうかと迷ったものの、好奇心に負けてネットで発注した。

読んで正解だった。二千年前の地中海で造られ、オーバーテクノロジーとも思える機能を備えていた「アンティキテラの古代機械」と、その謎を解こうと奮闘した科学者たちの百年にわたる解読合戦は、なまぬるいミステリーよりもよほど面白い。科学史好きにもお勧めできる。

*1オーパーツ=Out Of Place Artifacts、略してOOPARTS。その加工品が出土/発見された場所や製作されたと思われる時代が、当時の歴史や技術などにそぐわないと考えられるもの。時代錯誤的遺物と称される。

*2:たぶんこの雑誌だったと思うのだけれど、今となっては…orz