ロシア文学の食卓
ロシア文学を通して彼の地の伝統的な食文化を紹介する本。
去年観ていたNHKテレビ「ロシア語会話」で、著者の沼野恭子氏が案内するモスクワグルメ案内に釘付けになっていたので、本屋で見つけたときは何のためらいもなくレジへ。*1
魂とか罪とか救済とか、高尚なレベルで語られることが多いロシア文学だが、食事の場面を丹念に読み解いていくのも面白い。なにげなく列挙される料理の数々が写し取る歴史と文化の奥深さには瞠目した。
また、サモワールは家庭の温かさと心配りを示すものでもあった。サモワールに載せたお茶をカップに注いで家族の者たちに出すというのは、一家の主婦の大事な役目であり、「光栄」なことでさえあった。レフ・トルストイの長編『家庭の幸福』(一八五九)には、結婚したばかりの新妻が「私はあまりに若くて軽はずみだから、まだサモワールの蛇口をひねったりお茶を配ったりなんて栄誉あることができるはずもないわ」と考える場面がある。濃く煮だしておいたお茶をポットからカップに適量注ぎ分け、サモワールについている蛇口をひねって熱い湯を足し入れ、好みの濃さにするというのがロシア式紅茶の淹れ方だから、主婦は、家族ひとりひとりのお茶の好みを熟知して采配をふるわなければならないのである。
蛇足。ヘタリア眼鏡をかけて読むとさらに面白いと思うw
- 作者: 沼野充義,沼野恭子
- 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 単行本
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*1:実はこれに先立って図書館で沼野夫妻による『世界の食文化19 ロシア』を借りたのだが、あまりに内容が詳細で読むのに時間がかかりすぎて、読みきれないまま返してしまったのを悔やんでいた。またトライしたいと思っている。