サロゲート Surrogates

脳神経系を通じて直接機械を遠隔操作する技術を発展させ、「Surrogate(代理)」と呼ばれる身代わりのロボットが開発された世界。市民たちは、ベッドから出るときに洋服を着るように、あるいはネットでアバターを選ぶようにして、自分に似せたり理想を追求したりと好みの姿に調整したロボットを一日中操って生活している。人形だけが街を歩く社会に叛旗を翻した者たちは自治区をつくり、そこに立てこもるようにして暮らしていた。

犯罪率は劇的に減少していた。しかし事件は起きた。正体不明の武器によって破壊された二体のサロゲート。しかし問題は、サロゲートの機能停止と同時にそれらを操っていた市民も死んでいたことだった。保護機能が働かなかったのはなぜか。FBIは捜査を始めるが―――。

ある技術や思想によって根本的に変質したもうひとつの世界とその生活を丹念に描写するのが、SFに課された仕事のひとつだ。

一緒に行った息子と、あの実現不可能でもなさそうなディストピアで自分ならどう生活するかという話をしながら帰った。なりたい自己、自分にとってそうであるべき自己を他人から見える形に作り上げ、その姿で完全に生活を維持できる社会。しみも皺も肥満も薄毛*1もない「若く美しい」人形だけが暮らす社会は、実に気味が悪い*2のだが、同時にグロテスクな誘引力も備えている。映画『アバター』でも描かれていたように、行動を制約する障害や病気を負う人々にとっては、サロゲートシステムは究極の福音ともいえるだろう。

「あれだと、学校の同窓会に出ても誰が誰だかわかんないんじゃね?」と息子は云った。「先生が生徒より若いサロゲート使ってたりするかもしれないし」

「そうだね。『先生、ちっともお変わりないですね』がお世辞じゃなくなる世界か」

「あと、サロゲート使い分けるのは面白そうだね」

「究極のコスプレが出来るよ。初音型モデルとか。遊びに行くならいいけど仕事には使えないな(笑」

映画タイトルでネット検索すると「(あの社会で)自分ならこうする」的な感想がたくさん引っ掛かってきて面白かった。神経接続で機械を操る技術は、筋電義手に関連して既に現実に存在する。ありそうでなさそうで、でもいつかもしかしたら…。そう思うと薄気味悪さは倍増するのだが。

*1:主演がブルース・ウィリスなので、このネタは効果的に使われているw

*2:本人の面影を模したサロゲートたちは本物より無機質な顔立ちに合成され、完全に静止しているとマネキンぽく見えるように描写されている。自前のサロゲートのオーバーホール中に貸し出される代車ならぬ代サロゲートにいたっては、車会社のテスト用ダミー君レベルだ。