門をくぐる。

幼稚園が嫌いだった。ずっと独りで本を読んでいたいのに、誰かと手をつないで踊ったり、先生の云う通りにしなくてはいけないなんて。行くのが嫌で嫌で、何か話している先生の肩越しに壁の時計を見ては、あとどれくらいで帰れるとか、そんなことばかり考えていた。乱暴ないじめっこの名前は、数十年経ったいまも最強の暴君ティラノサウルスの名や姿と溶けあって、記憶にきざまれている。図鑑や展覧会でその恐竜の骨や復元図を見るたびに必ず思い出すイノマキ某、彼ももういい年のおっさんになってるんだろうな。

今はもうなくなってしまったあの幼稚園は、生きていくうえで避けては通れない外界への門だった。数年通って、しかしにこにこしながらくぐることは一度もないまま卒園した。小学校でも、大差のない苦行の毎日が待っていた。泣いてばかりいて、泣き疲れて授業に出ずにそのまま家に帰ったりしていた。親から見ればなんともめんどくさくて手がかかる子供だったろう。

いつのころからか、ひとのなかに入るのが苦にならなくなった。まわりとの距離の取り方と、馴れを覚えたのだろう。今も独りであれこれしながら過ごすのが大好きだけれど、誰かと一緒に何かをする楽しみもわかるようになった。何十年もかかった対人修行のはじまりが、あの幼稚園だった。

がんばれお父さん。通わせると決めたなら、連れていくのが親の仕事。その先、平坦ではない世界とどう向き合うかはお子さんの仕事。泣いても怒らないであげてくださいな。話そうとするときにはゆっくり(これがわりと難しい)聞いてあげてください。説明の言葉がうまく出ないと、泣くしかないのです。よしよし、がんばれ、がんばったね、ってほめて抱きしめてあげてくださいな。応援しています。