ついている。

D夫人の話。

ある店でジュエリーをたくさん買ったら、ディナーショーのチケット2枚をプレゼントされた。

紅白の古い常連でもあり、円熟味ある歌唱力には定評がある歌手のショーだったので、彼女は喜んで、夫婦で連れ立って出かけた。食事をしながらステージを楽しんでいるうちに、抽選プレゼントのコーナーになった。一等賞は、香港往復の豪華客船クルーズ旅行二名分だった。

まず、ステージ上の男性歌手が箱の中から数字の札を引いた。彼が数字を読み上げると、会場の客たちはいっせいに、手にしたチケットに刷られた数字を見つめた。

ややあって椅子から立ち上がったのは、D夫人の夫であるD氏だった。

ステージ上に手招きされて上がったD氏は、歌手に促されて、もうひとりの一等賞を選ぶために箱から数字札を引いた。それを受け取った歌手が、ゆっくりと数字を読み上げた。

ショー会場の薄暗がりのなかで立ち上がった人影を認めて「おや、同じテーブルからのお客様ですね」と云った歌手に、D氏が「あれは私の妻です」と告げると、会場がどよめいたという。

ずいぶんあとになって、D夫人の知人が男性歌手のショーに行った折に楽屋でその話を出したところ、彼は「ああ、あのご夫婦ですね。すごくびっくりしたのでよく覚えてますよ」とすぐに云ったそうだ。

さて、また別のときのこと。

東京湾に停泊している客船レストランへと、D夫人とその友人たちがランチパーティに出かけた。

その席でも抽選プレゼントが行われた。一等賞は香港往復クルーズ。

ステージに立った船長氏が微笑みながら引いた数字は、再びD夫人のチケットのものと合致した。引き当てたペアチケットで、D夫人は友人とクルーズに出かけた。

彼女には、そういう逸話がたくさんある。

今朝、家族でD夫人の話をしていたときも、話の途中で本人から電話がかかってきた。

こう書くとなんでもないことのようだが、そうそういつも電話をかけてくるひとではないのだ。連絡がないときは数ヶ月くらい音信が途絶える。

勘が鋭いというのか、強運というのか。人生の皿に生まれつき盛り付けられる幸運の量はひとそれぞれだろうが、彼女のそれが、平均量をはるかにしのいでいるらしいことだけはよくわかる。

しかし、彼女の買った宝くじが大当たりしたという話だけは聞かない。もしかしたら、そのあたりで何かのバランスが取れているのだろうか。不思議なことだ。