モンダジーの魚 Mondazy’s Fish

最近封切された映画の挿入歌を朝のテレビで流していた。紹介に「いま一番泣ける歌」というコピーをつけていて、また「泣かせて売る」商売かいとげんなりして、そこでチャンネルを替えようと思ったけれど、息子が観ていたのでそのままにしていた。

かわいらしいアニメがちまちま動いて歌詞が進むうちに、さらに気分がフラットになった。死を予告してくれるつごうのいいカミサマなどいるものか。死は予期せぬときに突然誰かをさらっていって、遺された側のそれまでの感覚や生活をこっぱみじんに破壊するものだ。

甘ったるい空涙の歌よりもホラーのほうがずっと現実に近いような気がするのは気のせいか(笑

家を出て道を歩いていると、車に轢かれたツユムシが中途半端な三次元と二次元のミックスになって路面に張り付いていた。まだ翅の緑も鮮やかなままだ。自分のイメージする死の形にいちばん近いそれから目を背けて丘を降り、来たバスに乗ったら、こっちをしげしげと見るひとがいた。家族の古い知り合いの老婦人だった。となりにすわって近況交換。おうちのねこちゃんは元気ですかと尋ねたら、最近病気ではかなくなってしまったという答えがかえってきた。17年いっしょに居たから立ち直るのがとてもむずかしい、とも。

ジム・クレイスのいう「モンダジーの魚」はどこにでもひそんでいる。暗がりでも白昼でも不意に現れては獲物をくわえて消える。次が誰か、いつなのか知るすべはない。みな生まれた瞬間から死にはじめている。猶予時間を刻む砂時計は決して止まらない。それを忘れないようにしたい。

死んでいる (白水uブックス―海外小説の誘惑)

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