運命の一撃。

6月1日、エールフランスAF447便が大西洋上で消息を絶ち、乗客228人が犠牲になった。

あれに乗り遅れて命拾いしたイタリア人夫妻が帰国後に自動車事故に遭ったというニュースを、ワイドショーで観た。

June 11, 2009

Woman who missed Flight 447 is killed in car crash

An Italian woman who arrived late for the Air France plane flight that crashed in the Atlantic last week has been killed in a car accident, it has been reported.

Johanna Ganthaler, a pensioner from Bolzano-Bozen province, had been on holiday in Brazil with her husband Kurt and missed Air France Flight 447 after turning up late at Rio de Janeiro airport on May 31.

All 228 people aboard lost their lives after the plane crashed into the Atlantic four hours into its flight to Paris.

The ANSA news agency reported that the couple had managed to pick up a flight from Rio the following day.

It said that Ms Ganthaler died when their car veered across a road in Kufstein, Austria, and swerved into an oncoming truck. Her husband was seriously injured.

Times Online

上記記事によると、夫妻の車は対向のトラックに突っ込んだらしい。妻は死亡、夫は重傷。事故現場はオーストリア。彼らの住まいがあるイタリアの最北部から、山を越えればすぐのあたりなのだろうか。

絶体絶命の危機をからくも免れて、拾ったはずの命を、すぐに失ってしまう。またとない幸運と見えた迂回路も含めて、はじめから死に至る一本道を歩いていたかのように。

SFやホラーが好きなひとなら、すぐに映画『ファイナル・デスティネーション』を思い浮かべるシチュエーションだ。空中爆発することになる飛行機から離陸直前に降ろされて命拾いした高校生たちが、逃れられない死に追い詰められていく話だが、今年はなんとシリーズ(?)四作目が公開されるらしい。人気があるのだろう。たしかに、残りわずかなクロスワードのマスを一つずつつぶしていくような、厭な爽快感に似たものがあるのは認める。

さて。家族が友人のA婦人から聞いた話だ。

A婦人の娘が嫁いだ男性の実家はM県南西部にある。自分も付近を通ったことがあるが、W県境に近い山深い地方で、うねうねと山合いを縫う国道は片側一車線ずつで、とても細い。

A婦人の娘の義父B氏は、その道を軽トラックで走っていて、事故に遭った。

細かい状況はよくわからないのだが、「クレーンの車」(とA婦人が表現したらしい。クレーン搭載のトラックだったのか、一体化した形のトラッククレーンだったのかは不明)が、作業用のクレーンアームを固定し忘れた状態で走ってきたのに接触して、一瞬で、軽トラックの運転席ごと半身を飛ばされたのだという。

葬式に出たA婦人は、火葬のあとに骨とともに大量の針金が焼け残っているのを見た。

故人の破砕された上半身をもとのかたちに「再構成」するのに使われていたらしい。

「クレーンをぐるんぐるん回しながら走ってくるのに接触して、ぜんぶ飛んだらしくって、顔もなかったの。ひどかった。でも不思議なのは、事故で亡くなる一週間前に、お義父さんと法事で会ってるんだけど、そのときにすごく淋しそうな、影が薄ーい感じがしたのよ。私だけじゃなくて、ほかのきょうだいたちも『××さん、身体がどこか悪いんだろうか。なんか影が薄くて…』っておんなじことを云っていて」

B氏が乗っていたトラックは、買ったばかりの新品だった。息子が、自分が馴らしに乗っていくと云ったのをさえぎって、自分が行くから、と嬉しそうに出かけた先での事故だったそうだ。

なんとなく影が薄かった→n日後に突然昇天、という話はたくさんあるが、これほど身近で聞いたのは初めてだ。

もうひとつは自分の話。

GWのころに、事故のイメージを視た。

脳内に突然投影されるような形で、意味のわからない場面を見ることがある。コンマ数秒の夢に似ている。なぜそんなものを観るのか、理由は知らない。自分の連続した思考や妄想(笑)とは明らかに異なる感じで、いきなりインサートされる。たぶん頭がどこかおかしいんだと思うが、そういうものなのでしかたがない。あまり頻繁に起きることではないし、写真のようにはっきりとしているわけでもない。

そのときも、「事故」の規模や場所はわからなかった。ただ、ああ、自動車事故だ、高速道路の入り口みたいなところだなあと、認識したのはそれだけだ。

GWがこれから始まるという晩だったので、もしかしたら例の通行費1000円騒動の影響もあって、どこかの高速で事故が起きるのかもしれないと思った。そして、そばにいた相方にその話をした。以前書いたように、怖い話や変な話に耐性がある彼はふんふんと頷いて、その晩はそれで終わった。

次の日、二人で夕飯を食べていると、電話が鳴った。

相方の親戚が自動車事故で亡くなったという知らせだった。

お葬式には出られなかった。事故の細かい話も聞いていない。脳裡に映ったものと、その事故との関連も、わからない。

A婦人の話も、自分の経験も、関連があるように見える事件がたまたま連続して起きて驚いたという話にすぎない。教訓があるとしたら、人間には先を見通す力がないから、今を安心して過ごせるのだという事実。結末のわかったミステリなんてとても読めたもんじゃない。それと同じこと。

先がわからないから楽しい。そう思うのは、自分が脳天気だからだろうか。