そんな天からの救いはないと知っていても。

弁当を詰めて家を飛び出した。あわただしく丘を降りていく途中で、足元で動くものを見つけた。おいおい、こんなところにいたら通行人に踏みつぶされちゃうよ、と腰をかがめてみると、枯れた竹の葉まみれのカブトムシの雌がひっくりかえってもがいていた。軽く降り積もった周りの葉をいくらつかんでも体を引き起こせず、起き上がれないのだ。ひょいとつまみ上げて、ひさしぶりにさわる大型甲虫のしっかりした鞘翅の感触を楽しんでから、近くの樹の根方に戻してやった。彼女が角の立派な雄と出会って、また次の世代がこの雑木林に誕生するといいなと思いながら、あとの路は駆け降りた。

連日報道されているいたましい幼児放置死事件には、元シングルマザーとして、無関心ではいられない。離婚してたった独りで子供を育てるのは、とても、とても、難しい。若い孤独な親が何度精神的にひっくり返ってもがいても、つまみ上げて天地が正しく見える姿勢に戻してくれる誰かはいなかったのか。彼女が救いのない真の絶望を知ることになる前に、いさめてくれる誰かはいなかったのか。

子供たちの冥福を心から祈る。