不可視の凶行。
数日前。家の門をすぐ入ったところ、階段のタイルに、水滴が散っていた。いたずらなサインのように小さな羽根も落ちていたので、階段を上りきったところに置いた睡蓮鉢でスズメがむりやり水浴びでもした跡なのだろうかと思っていた。
しかし、次の日も水滴は残っていた。まる一日乾かないってのはどういうことだろうかと顔を近づけてよく検分してみた。どうやらこれは血らしい。赤茶色のタイルの色のせいでごまかされてしまったようだ。
うしろから荷物を持ってついてきた息子が「うちの猫(アレ)がやったんじゃないの」といった。
「いや、君も『CSI』観てるからわかると思うけど。高いところから滴らないとこういう綺麗な円にはならない。地面を歩く猫がやったとは思えない。っていうか、アレには無理」
「じゃあなに」
「可能性が高いのはカラス。軒先に巣を作ってるスズメがやられたんじゃないか」
「あ、そうか。それならありえるかも」
以上、あくまで状況証拠から推測。
本当に何があったかはだれにもわからない。