なんと知らせたらいいのやら。

 ひょんなことから同僚のひとりを占うことになった。

 転職したほうがいいのか、残れるなら残ったほうがいいのかを知りたいという話だった。山のような仕事がとつぜん来ても笑顔を失わずによく働く、とても頼れる仲間なのでなるべくなら残ってほしいのだが、諸般の事情で辞める方向に動いているらしいという話は別方面から伝わってきていた。それならばせめて、次の仕事を探す手助けがすこしでも出来たらいいと思って依頼を受けた。

 約束の日、昼休みになると同時に、出勤時に買ってきたランチとカードを持って、エレベーターに飛び乗り、空いている会議室に入った。

 いろいろなところで何度となく繰り返してきた手順だった。そんなふうにして四半世紀のあいだ、さまざまな場でさまざまなひとたちを観てきた。今回も、理系の業界で理系の資格を生かしてずっと働いてきたひとの転職相談なのだと、すっかり思いこんでいた。

 しかし、めくったカードは、自分の目の前に座ってにこにしているのが、ひとならぬ力をもつ「器」、汲めどもつきぬ地の力を用いることを許された祭司であることをさらりと告げていた。

 職場にウルトラマン的存在がまぎれていたのを発見した衝撃にこちらの目玉も飛び出しかけたが、その場にはほかの同僚も居たので明言は避けた。

 席に戻ってからメールを書こうとしたが、カードの内容をいいあらわす良い表現が見つからない。いろいろと考えて、やっとのことで「次の仕事は、ひとをみちびき育てる仕事をお考えですか?」と書いた。本人の口からそういう方面の話はまったく聞いたことがなかったので、どこまで突っ込むべきなのか、なんと切り出したらよいのかわからなかったのだ。 

 自分が見たものをどう解釈していいのか悩みつつ、仕事をしていると、返信メールがきた。

 そこには、実は複数の占い師やそちら系のカウンセラーから、ずっとそう云われてきたのだと書かれていた。早くその天分を生かす仕事につくべきだとも云われているが、興味が持てないし、いわゆる普通の仕事で食べていきたいし、ためらい続けているのだ、とも。

 後日、ふたりきりのときにいろいろな話を聴かせてもらった。小さい頃から周りが持たない力を持っていたので、かえって当たるか当たらないかよくわからない占いには興味がなかったそうだ。「眼」がはっきり見えるのに、わざわざ補助の杖を使う必要はない、ということらしい。カードをめくらないと何もわからない自分とは真逆なのだな、と感心した。

 ずっと避けてきたんだけど、転職を考えているこの時期に、雪狼さんにはっきり云われちゃったのは、もう観念してそっちに行けってことかもしれませんね、と本人は笑っていた。

 

 現在進行形の話なので先のことはわからない。

 道がひらけるように、うまくいくように、とただ祈るのみだ。